短編小説

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悪い男

顔を見た瞬間、「まずい……」と思ったのもつかの間、向こうが気づいたのが早かったらしい。私が後ろを向くよりも先に、「ああ、山村さん……」 と言うあいつの声の方が早かった。 見つかったか……。 でも、常識的な社会人として気まずい顔は一切見せず、...
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Nameless Soul

皆こう言う。彼がそんなことをするとは思わなかったって。 彼は、真面目で、物静かで、優しい子だった。とてもあんな酷いことをするような子に見えなかったって、皆口を揃えて言ってる。 でも、真面目とか、優しいなんて、余程のクズでもなけりゃ誰にだって...
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恋は善きもの

僕は何でも知っている。知らないものなんて何もない。リンネの『植物の体系』を絵本にして育った僕の頭の中には、この世界のすべてが詰まっている。 僕のことを、みんなは「天才」とか「神童」なんて言っている。 でも、そんな褒め言葉、言われてもちっとも...
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砂の城

朝彦伯父に、以前から話があった結婚話がとうとう決まったことを告げると、一瞬右の眉が引きつったように上がったのが見えたくらいで、他はいつもと変わらずつまらなそうな顔をしただけだった。 わたしはそんな伯父の思惑など気にせず、話を続ける。「お父さ...
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マイ・スウィート・ナイトメア

意識が戻ってオレが思ったことは、「これで死んだら、世間は絶対オレのことを指差して笑うんだろうな」 ってことだった。それだけは何とか避けたいな。このまま死ぬなんて、死んでも死にきれないってもんだ。 倒れた時と動悸はそれほど変わらず、息をするの...
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スケッチ・オブ・ラブ

私がアンゲリカと過ごした時間は、彼女の短い人生の最後、たかだか数年程度でしかない。家族でも友人でもなく、ましてモーリスのように生涯を誓い合うほどの絆を持ったわけでもない。私はせいぜい、数多くいた総統の小間使いの一人にすぎなかった。 しかし、...
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ドジソン先生のお気に入り!

ここは辺獄、つまり地獄の周辺である。 死んだ人間が、諸般の事情により天国行きの許可が出るまでに時間がかかるような場合、天国の門が開かれるまで留め置かれる場所である。 普通の善男善女であれば死後の裁きに遭ったところで、「まあ、それはそれだった...
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