貴婦人のための正しいペットの飼育法

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 ルブラン伯爵夫人ヴァイオレットがアンリを飼い始めたのは、夫のルブラン伯を亡くして1年ほど経った頃のことだった。
 夫を亡くして以来、それまでの社交的な性格は一変し、塞ぎ込んで屋敷に籠もってばかりの妹を案じた兄のジョージが、
「こいつでも相手にしてれば、気も紛れて伯爵がいた頃みたいな気分になれるさ」
 と贈られたのがアンリだった。
 アンリを飼い始めた当初のヴァイオレットは、
「ペット程度で、あの人を亡くした悲しみが癒えるわけがないわ」
 と思っていたものだが、兄の思いやりまで否定するのも良くないだろうと、渋々ながらアンリと暮らし始めたのだった。
 アンリは手のかかるペットだった。
 食べ物の好みは激しく、散歩は気が向いた時でなければ歩かないくせに、歩き始めるやいなや自分の気が済むまで歩くのをやめようとしない。屋敷中のクッションやソファをボロボロにし、目についた物は片っ端からおもちゃにしてしまう。壊すやら散らかすやら、やりたい放題であった。
 こんな調子なので、使用人たちのアンリの評判はすこぶる悪かった。ヴァイオレットが不在の時にアンリを打擲して躾けようとする者や、ヴァイオレットの目を盗んで食べ物に毒を盛れば、穏便にいなくすることができると考える者もいた。
 しかし、彼らの企みはことごとく失敗に終わった。アンリはヴァイオレットの何よりのお気に入りだったから、アンリに手を出そうとする気配を察するや事前に警告してきて、彼らの計画は行動を起こす前に潰された。それに、実際にそんなことをしようものなら屋敷から追い出されかねない。そんな厄介ごとを自ら進んでやろうとする愚か者はさすがにいなかった。
 アンリが来てからといもの、ヴァイオレットの変化は誰の目にも理解できた。夫の生前の時のような、いやもしかしたら伯爵が生きていた頃以上に朗らかで溌剌とした彼女に変化したのだ。
 落ち込んでいた食もアンリの旺盛な食欲につられて食べるようになったし、億劫がっていた外出もアンリと出歩くためという名目ではあるものの、以前のように外へ出る回数も増えた。
 ヴァイオレットの横には常にアンリがいて、彼がそばにいればヴァイオレットは心の底から安心できた。
 このように、アンリの存在がヴァイオレットに良い影響を与えたのは確かなのだが、当人の幸福感と満足感とは裏腹に、周囲の目は大変冷ややかだった。
 それも致し方ないことで、アンリは人間の男だったからだ。
 アンリはジョージの所属する陸軍の下士官だった。軍に入隊した頃の彼は大層有望な男だったのだが、突然アンリの心に異変が起きた。急にわがまま放題の子どもの姿に戻ってしまったのである。
 このまま軍に置いておくわけにはいかない。しかし、アンリを診た医者に言わせると、この状態のままで世間に放り出しても困ることになるだろうとのこと。
 さて、こいつをどう処せばいいものかと上層部一同思案していた時、ジョージの頭に浮かんだのがヴァイオレットだった。
 ルブラン伯夫妻には子どもがなかった。そして、今のヴァイオレットの頭の中は、孤独感と虚無感なのだろうとジョージは思っていた。だから、ヴァイオレットに子ども返りしたアンリを世話させれば、彼女も生きる気力を取り戻すだろうと考えたのだ。
 ジョージのアイデアは見事に当たった。ルブラン伯爵夫人ヴァイオレットは、再び輝きを取り戻したのである。
 二人は文字通り一日を共に過ごした。共に寝起きし、共に食べ、感情を共有し、人生を謳歌した。
 それだけならば別に困ったことではないのだが、徐々に二人の生活は歪んだ背徳的な色合いが濃くなっていった。
 短時間でもヴァイオレットと離れることを嫌がるアンリを、ヴァイオレットが自分のトイレにも連れて行くようになったことから始まり、アンリの食事を口移しで与えるようになった。
 それだけでも充分顰蹙を買うものであったが、極めつけは「発情期」で勃起しっぱなしのアンリの陰茎を、人目も憚らず手と口で慰めるようになってしまった。
 いつぞやは、某侯爵夫人のサロンで行われた音楽会でのことだった。
 一同が美しい音色に心奪われて酔っている中、いきなり、
「ねえママ(アンリはヴァイオレットのことをママと呼ぶ。実際の二人の年齢差は10歳もないのだが)、僕のおち×ぽまた勃ってきちゃったよぅ」
 と子どもっぽく話すアンリの声が響いた。
 当然周囲は眉を顰めるが、アンリの困った様子にヴァイオレットは、
「あらあら、仕方ないわねえ。”盛り”がついてるんだから、自分ではどうしようもないもの、ママが何とかしてあげるわ」
 と優しい声で言うなり、アンリのズボンから陰茎を取り出し、手で扱き始めた。
「あっ、あっ、ママ……あんっ、ふんっ、はぅ、うん、うん……」
 華麗な音楽とアンリの淫らな喘ぎ声の奇妙なハーモニーに場は凍り付いたが、二人はまったく意にも介さずそのまま続ける。やがて、部屋に生臭い精の匂いが漂った。アンリの陰茎の先から白濁した汁が、ぴゅっ、ぴゅと吹き出していた。
「ああ、僕もうダメぇ」
「まあ、あなたのだらしないイキ顔とっても可愛いわ、アンリ。可愛すぎて、これまで可愛い」
  そう言うとヴァイオレットは体を屈めて、口いっぱいにアンリの陰茎を頬張り、上に下にと頭を動かす。そうしていくうちに、ますますアンリの喘ぎ声に弾みがつき、周囲はもはや音楽を聴く気分ではなくなっていた。
 一人、そして一人と部屋からいなくなっていくが、二人には他人のことなどどうでも良かった。
「あん、ママ……ママ……もう、我慢できない……ママのお口気持ちよくていっぱい出るよぉ……」
 それから十数秒後、
「ああー……!」
 という嬌声とともに、ヴァイオレットの口いっぱいに精液が噴出した。
 全身を細かく痙攣させながら快感の余韻に浸っているアンリの顔を見つめつつ、ヴァイオレットは口の中の精液を飲み下す。
 そして、心の底から思った。
 この愛らしい「ペット」がいれば、他に望むものはない。
 これこそが、自分の求めていたものだったと。

Fin

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