歴史に”if”はないというけれど……

人は奇っ怪、世は不可解
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 よく歴史のifネタとして、「もしヒトラーが美大に合格していたら……」というのがある。
 確かに、ヒトラーの人生における美大(正確にはウィーン美術アカデミー)不合格というイベントは、彼がもとから抱いていた劣等感に社会への復讐心を点火させることになったという面はあると思う。
 でも、美大に受かっていても彼の鬱屈にはあんまり影響はなかったんじゃないかしら。あれほど劣等感にまみれながら、自己愛と自信が過剰でもあるっていう面倒くさい性格だと多方面に軋轢を生んで、独裁者になっていなくても社会に災厄を呼んでいそうな気がする。
 そんな風に歴史に名を刻んだという意味では大物でも、人間的には小物だったヒトラーと違って、本当に「もしこうだったら歴史は大きく違っていた」と思うのがエルビス・プレスリーの人生だと思っている。
 そんな”キング”エルビスにとっての”if”というのは、

もしエルビスが11歳の誕生日プレゼントで、ママが彼が望んだ通りにライフルを贈られていたらロックンロールどころか、世界の音楽史が違うものになっていた

 という”もしも”。
 そもそも11歳のガキンちょがライフルを欲しがったということ自体にビビっちゃうんだけど、当然ママはそんな願いを聞き入れることはなく(常識人で良かった)、そんな危ないものよりこれで遊びなさいよと贈られたのがアコースティックギターだった。
 もしかしたら、ギターを貰ったエルビス少年は最初は面白くなかったかもしれない。でも、すぐにエルビス少年はギターの魅力に夢中になって一生懸命練習するようになったという。
 また、13歳の時にプレスリー一家が引っ越した先がメンフィスというのも運命だったという印象を受ける。
 引っ越し先の自宅は黒人の住人が多い地区で、黒人の音楽を日常的に耳にする暮らしだったというとこも、神さまもなかなかニクいことをするなぁとニヤリとしてしまう。
 彼が世に出た当時は人種差別も今と比べものにならないほど苛烈で、黒人の音楽をやるエルビスは非難の的だった。
 加えて、全身から自然に迸るセクシーさも道徳的によろしくないとも言われていた。
 でも、そんな世間の声に対して、

「ロックンロールが非行の原因になるとは思わない」
「セクシーにしようとは思ってないさ。自分を表現する方法なんだ」
「俺は人々に悪影響を与えてるとは思わない。もしそう思ったら、俺はトラック運転手に戻るよ。本気でそう思ってるんだ」

エルヴィス・プレスリー _ Wikipedia

 と答えて、自身のスタイルを通している。
 だが、その一方で政治的な発言については慎重だった。社会問題について、自分のい考えを表明することを意識的に避けていた。
 このような態度は、有名人であっても社会問題に対しての姿勢は明確にすべきである、って流れが強い昨今においては、エルビスの態度は臆病に見えるかもしれない。
 でも、むしろ大衆に対して影響力が強い有名人という自覚と責任感があったからこそ、安易に政治的な事柄に口を突っ込んで、社会を混乱させるようなことをしてはいけないと自制する意識があったのではないだろうか。
 一人の市民として、考えや意見は持っている、しかし自分は政治家でも活動家でもなく、一人の芸能人でしかないと線引きをして、自分の影響力を利用することも、また自分の影響力を他人に利用させることも避けようとしたんじゃないかと。そんな現実社会に対する控えめな態度にもまた、私は好感を持つ。
 「オレが! オレのやってることが、言うことが絶対に正しいんだ!」
 ってのはガキの考えと態度であって、大人は他者も視野に入れた言動をするものだと思う。そして、エルビスはそんな大人だったと思うのね。
 ただ見た目や音楽がカッコいいだけじゃなくて。
 ということで、エルビスにギターをプレゼントしてくれて、ママ、ありがとう! そして、ありがとう!

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