本当に可愛いだけだった場合のとある一例

人は奇っ怪、世は不可解
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 流行りに全然ついていけない人間なので、『かわいいだけじゃだめですか?』というタイトルを見て、
「へぇ、若い子に(イザベル・)アジャーニが人気なのか~」
 なんて思ってたもんですが、全然違ってた上に、そもそもイザベル・アジャーニの映画の方は『可愛いだけじゃダメかしら?』が正しいタイトルであった。
 あばばばばば、恥ずかしい恥ずかしい。
 それにしても、不美人に生まれると可愛い人や綺麗な顔に生まれた人に対して羨望と嫉妬がごちゃごちゃ複雑怪奇に絡まって、「どうせ顔だけでしょ」だの「性格は最悪」だの散々扱き下ろしてしてしまう。
 美人である当人としては生まれつきそうだっただけで、自分の責任でも何でもないのに、知らないうちに勝手に他人から悪意と敵意を向けられたらたまったもんじゃないだろうな、と今では思う。
 けど、不美人は不美人の苦労もあるので”おあいこ”だと思っていただきたい(それこそ勝手であるな)。
 まあ、その手の敵意は美人だけに向かっているわけじゃなくて、見た目の美醜だけで人としての優劣まで決めて好き勝手言ってチヤホヤしやがる男連中とか世間への怒りも大分混じっているので、この手のやっかみは美人だけの問題ではないんだぞ、ということは強く言っておく。
 そりゃあ、誰だって不美人よりは美人の方が良いのは決まりきったことなんだけど、本当に可愛いだけだった場合どうなるか。
 という疑問の答えとして相応しい一例があるのでご紹介。
 サンプルとして取り上げるのは元ルーマニア社会主義共和国大統領夫人で、自身も第一副議長などを務めたエレナ・チャウシェスク。
 まず実際に見た方が理解が早いと思うので、画像をご覧あれ。エレナ・チャウシェスクの若い頃がこちらになります。

Image By Wikimedia Commons

 目鼻立ちのくっきりしたなかなかの美人で、こりゃあニコラエもベタ惚れするのも当然かもしれない。
 実際、ニコラエは生涯エレナ以外の女には興味を抱かなかったほどだったらしい。そこまで惚れこむのも凄いな。(自分の妻の容姿を「芸術品の如し」なんて評した森鷗外もいるけど)
 しかし、エレナの持っていた美点は、この目を惹く容姿と、手先の器用さくらいのもので、実社会での彼女は正直に言うと「無能」だった。
 共産党員として外務省で秘書官として働いていた際、エレナの姿が見えなくても一切困ることはなかったと言われるほど、「彼女は使いものにならなかったという。

「彼女には、規律と服従以外に際立っていたものはなかった。何かが足りず、退屈で、ユーモアのセンスがなく、それゆえに『信頼できる仲間』であったのだ」

エレナ・チャウシェスク – Wikipedia

 とはいえ、人より抜きん出た才能も取り立てて目立ったところもないような人間なんて、何もエレナだけが持つ特徴でもないのだから、平凡であること自体は悪でも何でもない。
 少なくとも、一般市民としてごく普通の人生を生きているだけならば、の話だけれども。
 エレナにとって人生最大の幸運だったかもしれないが、ルーマニア国民にとって何よりも不幸だったのが、夫がニコラエ・チャウシェスクだったことだろう。
 ニコラエがルーマニア共産党の書記長に就任すると、エレナは「社会経済予測中央委員会」の委員に選出されている。
 だが、先に書いたように仕事が出来ない、使えない人間だったエレナが経済に関して見識があったとは到底思えないから、どう考えても党の親族枠で選ばれただけと思うんだが、結果としてこれがエレナを勘違いさせ、そして増長させていく。
 夫に同行して訪問した中国と北朝鮮で目にした個人崇拝は、エレナに強い刺激と影響を与え、後に夫に負けず劣らず、「国民の母」と呼ばれるほどの権力を手にしてしまうわけだ。
 チャウシェスク夫妻の権力欲と虚栄心と名誉欲に翻弄されたルーマニアは、かつて存在していたはずの共産主義の大義などはなくなり、やがて国内経済は崩壊する。
 そして。
 1989年ルーマニア革命が起きる。
 12月25日午後、チャウシェスク夫妻は逃亡を図ったものの軍に取り押さえられ、形式的な裁判で裁かれた後(判決は死刑)、夫婦ともに銃殺刑に処せられた。
 処刑前後の二人の姿はカメラに収められ、遺体の映像も世界中に配信されている。そして、私はそれをリアルタイムで見た世代だったりする。
 当時子どもだったので、何が起きているのか全然分からない。でも、何か大変なことが起きたらしいことは、子どもでも理解出来ていたと思う。こんな風にしっかりはっきり覚えているのだから。
 誰と会うか、共に人生を歩むのは誰なのか。
 人生なんて、節目節目にある種博打みたいな選択を迫られるものだけど、結婚相手ほどデカい博打はないだろう。それを考えると、エレナは誰よりも良いくじを引いた果報者だと言える。
 でも、それまで何かを積み重ねてきたわけじゃないから、せっかくの幸運も上手く活かすことが出来なかったという点でいうなら、人生でモノを言うのはやはり中身なんじゃないかという気がするね。

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