米原万里さんのおかげでロシアの小話、アネクドートの面白さを知り、色んなアネクドートを読んでみたいと思っているのだけど、ある種の口承文学みたいなものなので、物好きな研究者でもない限り採集していないのか本にまとめられているものは見つからないし、ネットに上がっている論文もかなり限られているという状況だった。
ロシア語のサイトにはあるんだけどね、さすがに読めません。
一介の共産趣味者として時代の暮らしと庶民の本音を知りたいのに、それは叶わぬ夢なのか……。 と思ってたら、なんてことない、地元の図書館にあった。
行くたびに海外文学の棚はくまなく見ていたのに、どこを見てたんだか。
その本は『ロシア・ジョーク集』原卓也編著(実業之日本社)で、「昭和53年11月20日発行」とあって、さすがにワタシも生まれる前です。
収録されてるジョークは今だと炎上必至だろうと思われるものが多いけど、まあ、それはそういう時代だったと理解してもらった上で(でも、個人的にはそういうものの方が好きだったりする性悪なヤツ)、いくつか紹介していきます。
これでもほんの一部なので、図書館などで『ロシア・ジョーク集』を見つけたら是非ご一読を。
『 素晴らしき哉共産主義!』編
ブレジネフがコスイギンにいった。
「国境を開放するよう世論が要求しているが、自由に出国することを許すと、わが祖国にはわれわれ二人しか残らないんじゃないかね?」
するとコスイギンがたずねた。
「二人しか残らないといったけど、それはきみと、ほかにだれなんだい?」
ブレジネフの母親が健在だった頃、ブレジネフは母に、自分がどれだけ偉くなったか、感心させたいと思ったので、ウクライナのドニェプロジェルジンスクの家から母を招いて、モスクワの広大な私邸を案内したが、母親はさっぱり感心せず、むしろ不機嫌だった。
そこでブレジネフはクレムリンに電話をかけ、専用のジルをよんで、以前スターリンとフルシチョフが使っていたウソボ近くの自分の別荘に母を連れていき、部屋を一つずつ見せ、さらにあたりの美しい土地も見せたが、以前、母親はむっつりしている。
そこでブレジネフは自分のヘリコプターをよんで、サビドボの狩猟地域にあるロッジにまっすぎ連れていった。ここで彼は母を大きな暖炉のついた宴会場に案内し、自分の猟銃をはじめ、いっさい合切を見せ、ついにたまりかねて母にたずねた。
「ねえ、母さん、どうだい?」
すると母親はためらいがちにいった。
「たいへん結構だよ、レオニード。でも、赤軍が戻ってきたらどうするんだね?」
カール・マルクスがこの地上に再来して、モスクワ・テレビにぜひ出演させてくれと頼みにきた。ディレクターは「わが国では、それでなくても毎日マルクスについての番組がたくさんあるから結構です」と断った。が、それでもマルクスが執拗に頼むので、一言だけならという条件で認めることにした。
マルクスはマイクに向かって、おもむろにいった。
「万国のプロレタリアよ、わたしを赦してください!」
「わが国ではすべてが計画生産ですが、出生率も計画できるものでしょうか?」
「できません」科学者が答えた。
「なぜでしょうか?」
「生産手段が私有だからです」
事故を起こしたあと、やっと意識をとり戻したドライバーがいった。
「ぼくはどこにいるんです?」
救急病院の看護婦が答えた。
「六号室です」
「それは病院ですか、独房ですか?」
「ソ連で新しい極刑が施行されているそうですが、どんな刑罰ですか?」
「死ぬ権利を与えぬ、終身自由剥奪です」
「ハンブルクの売春宿に、何かしら政治的なスローガンが掛けてありますか?」
「あります。いちばん有名なものはこう述べていますーー万国のプロレタリアートよ、結合せよ!」
「どうして中国では、身代金を取る目的で人を誘拐したりしないのですか?」
「なぜなら、あの国には一つのテロ組織があるだけで、すべての市民はもう人質にされているからです」
これ、多分中ソ対立の時に出来たヤツだと思う。
そして、当然宿敵アメリカにも容赦ない。
「ソルジェニーツィンはその著書『収容所群島』の中で、ニューヨーク州の最高裁判事をロバよばわりしています。彼は侮辱を感じなかったのでしょうか?」
「だれがですか? 判事が、それともロバがですか?」
「ぼくがはじめてニューヨークに来たときには、ポケットにたった一ドルしか無かったもんだよ。それがぼくの出発だった」
「で、どんな事業にその一ドルを使ったんです?」
「なに、金を送ってくれと父親に電報を打ったのさ」
アメリカでは外科医の大多数が金儲けのために、必要もない手術を行っているという新聞記事を読んで、一人の外科医が、こんな記事はでたらめだと憤慨した。
「たとえば、このわたしなんぞ」彼はいった。
「手術をするのは、本当に金が必要なときだけだからね」
「西ドイツのブラント首相と、アメリカのニクソン大統領は、自分の意志でその地位を去りましたけれど、どういう思惑からでしょう?」
「いちばん大きいのは、タイミングよくズラかろうという思惑です」
ニクソン、言うほどタイミング良かったっけ?
『人間、この滑稽なる生き物』編
法廷は、動物を愚弄した罪で、夫に禁固刑を言い渡した。証人たちの証言によると、彼は生きたウナギで妻を殴ったのである。
どちらを愚弄したかは、あえて考えるまい……。
「禿げになるのと、ばかになるのと、どっちがいいでしょう?」
「ばかのほうがいいです。さほど目立ちませんから」
そうかしら?
「機械に対する人間の優越点はどこにありますか?」
「何もしないで平気でいるような機械を、まだ作りだしていない点です」
「大部分の人にとって、死の主要な原因は何ですか?」
「彼らの生命です」
「酒は?」
「飲みません」
「煙草は?」
「吸いません」
「じゃ、賭けごとか?」
「いいえ、やりません」
「すると、女だな?」
「妻以外の女性には、関心がありません」
「ほう、するときみには一つも欠点がないんだね?」
「一つだけあります」
「どんな?」
「わたしは嘘つきなんです」
ソ連にも高田純次みたいなヤツがいたのか。
「なぜ、たいていの人が本を借りて、返さないんだろう?」
「本の内容をものにするより、本をものにしたほうがやさしいからさ」
「お前の服についているバッジは何だい?」おばあさんがたずねた。
「これはね、二つの大学を卒業した印ですよ」孫が得意そうに答えた。
おばあさんは呆れ顔でいった。
「お前は大学一つじゃ勉強が終わらないほど、頭が悪かったのかねえ」
年寄りの口の悪さはなかなかのものよ。
「ぼくは船員になるのが、一生の夢だったんですよ」
「どうしてならなかったんです?」
「それがね、ぼくは大のうっかり者で、船に乗ったりしたら、それこそ何をしでかすがわからなかったんで、あきらめたんです。早い話が、違うコックを開いたり、余計なことをしたり……」
「で、今のお仕事は?」
「薬局に勤めてます」
でも、こういうタイプって意外と良い仕事したりするんだよね。
「ひどい時化の場合、船でどんなものを食べたらいいでしょうか?」
「いちばん安いものです」
そもそも食べられるのかという問題があるが?
「これほどのご高齢まで生きのびられたことを、あなたはまず第一に、何によって説明なさいますか?」
長寿番付一位の老人に新聞記者が質問した。
「そりゃ、あんた、きょうまでわしが死ななかったことによってですよ」
結果良けりゃそれで良いじゃんか。
「おばあさん、病院へできるだけ早く行きたいんだけど、道を教えてくれない?」
婦人はじろりと男を眺めて、いった。
「もう一度《おばあさん》といってごらん。そしたらすぐにそこに行けるから」
口は禍の門よ。
女性の客が子どもにおみやげをもってきた。子どもはいった。
「ありがとう、おばさん」
「お礼をいわれるほどの物じゃないよ」
「ぼくもそう思うんだけど、どうせママがお礼をいえっていうんだもの」
何ごとも最初が肝心だからね。
『女と男の現実』編
ある女性、旧友に電話して報告した。
「ねえ、あたし、いよいよ離婚への第一歩を踏み出したのよ」
「どんなふうに?」「結婚したの」
そりゃそうだけどさぁ……。
老人が若い頃の思い出話をしていた。
「わしのために、一人の魅惑的な娘さんが命を賭したこともあったよ」溜息まじりに老人がいった。
「ほんとに?」
「ああ。その娘は、わしと結婚するくらいなら、ヴォルガ河に身を投げるといったんだよ」
え、そっちなの?(困惑)
独身の富豪が遺言状を作成し、その昔、彼のプロポーズをはねつけた三人の女性に財産を分与することにした。遺言状の内容。
「わたしが生涯楽しんできた平和と幸福は、彼女たちのおかげである」
電話のベルが鳴った。三人の娘をもつ主人が受話器をとった。彼が口を開く間もないうちに、にやけた青年の声が甘ったるくいった。
「きみかい、小鳩ちゃん?」
「いいや」父親は苦りきって答えた。
「鳩小屋の持主だよ」
今はこういう経験もなっちゃっただろうね。
若い娘がボーイフレンドにいった。
「正直にいって、あたし、生まれてから今までに嘘をついたことは、たった三回しかないのよ」
ボーイフレンドが答えた。
「それを入れりゃ、四回だね」
本当に四回で済んでるだろうか?
「ぼくは男の友情を信ずる。ぼくの友人が僕の妻を連れ去ってからまだ一年とたたないのに、彼はもう返してくれるというんだ」
返品されても(言い方ァァァ!)ちゃんと引きうけるのか。
「裸の女性から、何をひっぱがすことができるでしょうか?」
「相手の男をです」
個人的には白シャツ男子が好きなので、着用希望で前をはだけさせて欲しい(何だそれ?)
「あなたは子どもが好きですか?」
「それを作る仕事ほどではありません」
とか言ってると、こんな未来が待っている。
「ねえ、ママ、ぼくちょっと泳いでもいい?」
「だめよ、ここはとっても深いから」
「じゃ、どうしてパパはいいの? ほら、あんなに遠くまで泳いでいったよ」
「パパのことなら心配ないのよ、坊や。保険がかかってるんだから」
それ、正確には「かかってる」じゃなくて「かけている」ではないかね、奥さん?
「女と雪の違いは何ですか?」
「雪は横たわったのち融けますが、女は融けたのちに横たわる点です」
「月給と月経の間に違いはありますか?」
「まったくありません。どちらも待つのは一ヶ月、なくなるのは三日ですから」
「娘と兵士の違いはどういう点でしょうか?」
「兵士は最後の血の一滴までたたかいますが、娘は最初の一滴までです」
まあ、どんな戦いも最初で決まるからね?(そういう意味ではない)
「女性と煙草との共通点は何でしょうか?」
「どちらも、楽しむ前によく揉みほぐす必要があることです」
電子タバコは揉まなくても良いからラクってか?
「宇宙的な女性とは何のことでしょう?」
「その上に乗って、無重量状態の気分にさせてくれる女性のことです」
少しはこっちのことも考えてくれない?
「なぜ、ナイトクラブのストリップに出演するのは、女ばかりなのですか。男性はどこが劣っているのですか?」
「劣っているわけではありません。彼らは精力の面でピンチを招きたがらないのです」
実はマナイタショーというのがありましてな……。
「ぼくはたいそう古風な両親をもつ娘さんと結婚したいと思っています。ぼくは両親に娘さんの手を求める(プロポーズする)べきでしょうか?」
「どうして、手だけを?」
確かに、手だけで終わるわきゃないもんね。
「母親の喜びとはどんなものでしょうか?」
「それは、子どもたちが眠っているときの母親の官能です」
それは、母親じゃなくてお前の喜びじゃねーか。
「ちゃんとした女性は何時に寝床に入るべきでしょうか?」
「ちゃんとした女性なら、九時には寝床に入らねばいけません。なぜなら、一二時には自宅にいなければならないからです」
考えようによっては、九時までは誰と何をしても自由ってことだわよねー。
「夫の飼育法を教えていただけますか?」
「犬と同じことです。食べさせて、飲ませて、夜になったら散歩に放してやることです」
でもねえ、犬と違って全然言うこと聞かないのよ。
「愛より高いものはなんですか?」
「おへそです」
へぇ~、すぐ上にあるんだぁ~。……って低いんじゃ!
「文化と接吻の関係は、どのようなものでしょうか?」
「文化が高くなるにつれて、接吻する場所が低くなってゆくものです」
「現在、『だめ、そんなのお行儀がわるいわよ!』と叱って、青年を躾けてくれるようなところがあるでしょうか?」
「いちばん高級な売春窟だけです」
女王様ぁ!
「都会の目抜き通りで、女とやってもいいでしょうか?」
「だめです。いろいろ助言する人間が出てくるでしょうから」
他人のやり方に、偉そうに助言できるほどの技を持つ加藤鷹みたいな達人が街中にそんなにゴロゴロいてたまるかっ!
「母乳でいちばん重要なものは何でしょうか?」
「容れ物です」
哺乳瓶に酒入れて飲むのもなかなかオツなもんだ、って言う人がいたな。
「新婚旅行に行くのですが、初夜に、ホテルのシーツを汚さずにすむ方法があるでしょうか?」
「お二人とも足を念入りに洗うよう、おすすめします」
健闘を祈る。
「ノスタルジーとはいったい何ですか?」
「それは人間が、生まれてきた場所を強く恋うる気持です」
自分のもう一方の原料供給元のことは考えてあげないの?
「一人の女性が三ルーブルで暮らしてゆけるでしょうか?」
「できます。着る分をツケにして、脱ぐのはキャッシュでもらうことにすれば」
それが出来る女と、出来ない女がいるのよ!(泣)
「女性が男性を百万長者にしてやれるでしょうか?」
「できます。男が千万長者だったら」
これはどんな女でも才能はあるよ。試してみ?
「どうしてあなたのお兄さんは、いまだに独身なんですか?」
「自分の妻になることを承諾するようなばかな女と結婚するほど、ばかではないからです」
身の程と身の丈と腹八分目は大事ですわよ。
夫「お前はまるで阿呆みたいな口をきくな」
妻「あたしは、あんたにわかるように話してるだけよ」
結局似た者夫婦なのである。結局、ただの惚気である。なぁんだ、ちぇっ。
「悲しまないでおくれ、お前」臨終の床で夫が泣いている妻にいった。
「お前だって、また結婚できるかもしれないよ」
「こんなお婆さんを、だれがもらってくれるもんですか!」
いっそう悲痛に泣きじゃくりながら、妻がいった。
「せめて一〇年前にこうなってくれていたら……」
ねー、だよねー(鬼)。
ある婦人が交番に駆けこんで来て、訴えた。
「おまわりさん、あの人を捕まえてください。さっきからずっとあたしの跡をつけまわしてるんです。酔ってるんだとは思いますけど」
警官はまじまじと婦人を見てから、いった。
「きっと、そうでしょうね」
やっかましいわ!
『ロシア男の悲哀』編
嫁姑問題は世界共通かと思ってたら、ロシアでは「婿姑問題」の方が根深いらしい。
ていうか、どこも舅は何やってんだ?
「娘婿が姑を海で溺らせたら、どのような罪に問われますか?」
「姑殺しはきびしくは罰せられません。しかし、もしあなたがお姑さんを海に沈めたりしたら、あなたは環境汚染の罪に問われるでしょう」
新婚気分のまだぬけないアントンが帰宅した。出迎えた妻はやさしくキスしていった。
「ねえ、あなた、はっきりするまでいうまいと思って今まで黙っていたけれど、今ならもう確かだからいうわね。もうすぐ、あたしたち、三人になるのよ」
「え、そいつは素敵だ!」アントンは興奮して喜びの声をあげた。
「でも確かなんだろうね?」
「ええ、絶対よ。電報が来たもの。明日からお母さんがこの家で暮らすんですって」
貸間探しの新聞広告。
「部屋を求む。広さは、妻が実家に逃げ帰りたくなくならぬ程度に広く、妻の母がいっしょに住もうといいださぬ程度に狭いもの」
そして、ロシア男と酒は切っても切っても切っても(以下エンドレスループ)切り離せない。
酒を禁じられている夫の書斎で、コニャックの空壜をみつけた妻が、詰問した。
「これはどこから出てきたの?」
「ぼくも不思議に思ってるんだ。一度だって、空壜を買ったことなんかないのにさ」
「長年のアル中患者はみな、一杯だけ余計に飲んでしまう、といわれていますが、いったい何杯目のことでしょう?」
「最初の一杯です」
「ぼくは飲むほどに酔うほどに、手がふるえてね。手がふるえればふるえるほど、酒をこぼしちまうんだ。こぼせばこぼすほど、飲む量は減るだろう。というわけで、ぼくは飲めば飲むほど、飲む量は減っていくんだよ」
何だ、その屁理屈。
「ウォトカのつまみにニンニクを食べるのは、ためになるでしょうか?」
「大そうためになります。真暗闇の中でさえ、塀の下につぶれているあなたをみつけるのが簡単になりますから」
最後に、ダメ押しでこの人の言葉で締めさせていただきます。
男と交際のない女は、だんだん色あせる。女と交際のない男は、だんだんばかになる。チェーホフ『手帖』より

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます