侯爵婦人の甘やかな降伏

Adult Only
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【プロローグ】

 今僕の手には一通の手紙がある。伯父であるサマセット侯爵エドワード・タウンゼントが結婚前にヘレン・フラナガンに送ったものだ。

【親愛なるフラナガン嬢
 お久しぶりでございます。お元気でございますか。
 先日の求婚のこと、お考えになっていただけているでしょうか。
 私は決して軽はずみな気持ちで求婚したわけでは無いことは信じていただきたい。確かに、貴女のご両親からは貴女を私のもとにという話はあったことは確かであります。
 また、正直に申すと、私は最初、このお話をお断りしようと思っておりました。私にとって愛する女性とは亡くなった妻だけであり、他の女性を愛するといった考えは毛頭なかったのです。
 しかし、貴女はその考えを変えさせてしまいました。初めて会った晩餐会での、あの瞬間から、私の心は貴女に囚われてしまったのです。寝ても醒めても、政務中ですら考えることは貴女のことで、心ここに在らずといった風情に周りの者が心配する有り様でありました。
 この年齢で、貴女のようなうら若き女性に少年のような恋心を抱いたことに、笑ってしまわれるかもしれません。私ですら戸惑っているのです。
 私のような立場の人間が貴女のような、将来に未知の希望を抱いている若い女性の未来を奪うようなことは、許されないかもしれません。また、嫁するには覚悟も必要でありましょう。
 ですが、私は貴女とこれからの人生を共に歩んでいきたのです。貴女がいなければ、私の人生は、どんな成功を積んでも不完全なものとなるでしょう。貴女のために喜んで私は貴女の下僕となりましょう。貴女を守るためならば強固な盾ともなりましょう。ぜひとも、私のもとへ来ていただきたいと切に願っております。
                      エドワード・タウンゼント】

 この手紙はヘレンが輿入れの時に、後生大事に抱えてきた箱の中に入っていたものだ。娘らしい子どもっぽい夢の詰まった宝箱。この手紙もその夢の一つだったのだろう。いつかは花嫁になるという夢を叶えてくれた大事な招待状として。
 伯父がこうして胸焦がれる思いをヘレンに吐露したことが功を奏したのか、三年前、地方の男爵家の一人娘だったヘレンは、若き名政治家とも名高いサマセット侯爵の後妻に納まった。当時サマセット侯爵四十二歳、ヘレン十八歳、ガラスの靴を手に入れた乙女と話題になったものだ。
 しかし一方で、百戦錬磨の庶民院も一目置く貴族院の政治家と親子ほども歳の離れた新妻という組み合わせに、世間の口さがない連中は色々言ったものである。曰く「政略結婚で若い娘を手籠めにした」とか、曰く「田舎貴族が出世のために娘を売り飛ばした」とか。
 だが、伯父は若き妻をまるで王妃のように扱い愛を示したのに対して、ヘレンの方も尊敬の念を持ってそれに応える。そんな二人の姿を目にした人々にとって、そんな下卑た声がいかに鹿馬鹿しいことだったか一目瞭然だった。
 しかし、僕は知っている。どんなに完璧に見える人間にだって知られたくない秘密くらいあることを。それが閨房に関することならなおのこと、秘密の色は濃くなる。僕はこの手紙を千切り灰皿に投げ入れると、マッチを擦って手紙に火をつけた。
 その火で煙草に火をつけ一服しながら、手紙が燃えるのを待つ。その炎を眺めながら思うのは、ヘレンが抱いただろう夢のこと。もうこの手紙が与えた夢はお終い。ガラスの靴は砕け散る。これから見るものを与えるのは、この僕、ジェレミー・タウンゼントだということを教えてあげよう。

【二人でお茶を】

「そんな遠くないところに、こんな美しい場所があったなんて知らなかった、エディも知らないんじゃないかしら? まるでセントムーアにそっくりだわ !」
 ヘレンは目の前の光景に感嘆の声をあげた。
 ここは丘陵地の中にぽっと小さな湖があり、決して雄大な自然が望める派手な景勝地ではないが、引けを取らない美しさがあるアンブルミアの湖畔。二人並んで遊歩道を歩いていると、草むらからはウサギがかけっこをして遊ぶ姿がのぞき、遠くの丘には鹿の親子がのんびり散歩している光景が見え、ヘレンは彼女の故郷を思い出させる景色に心を浮き立たせていた。
 僕とヘレンがアンブルミアの湖を訪れたのは、伯父がオランデール公国との条約の調印式へ旅立った二日目のことだった。
 僕は伯父から出発前に、「ヘレンをどこかに連れ出してほしい」と頼まれていた。
 確かに僕たちが条約締結に奔走していたこの数か月、彼女は僕の母や姉たちのように観劇だ、ドレスの、宝石の展示会だと遊び歩かず、静かに伯父を待つ生活をしていたから、伯父としても気がかりだったのだろう。
 それならせめてと、ヘレンにとって義理の兄のような存在の僕に、外の空気を吸うように連れ出してもらおう、と考えてくれたわけだ。
 それならば大がかりな旅行とまでは行かずとも、湖水地帯へのピクニックならちょっとした小旅行の気分も味わえるだろうと考え、馬車で一時間半のアンブルミアに行くことにした。
 行きの道中、ヘレンは、
「ジュリア様たちも一緒に来ればよかったですわね、そうすればもっと楽しかったのに」
 と無邪気に言っていたものだった。実際、はじめは母と姉たちもついてくるつもりでいたようだが、「伯父上は僕とヘレンとで行ってこい、と仰ったんですよ」と言い含めて断念させた。あのかしましいお喋りが一緒では、この美しい景色も台無しだ。
 それにしてもこの美しい風景にヘレンは実に楽しそうだった。嫁いで三年、故郷に一度も帰ることがなく、安楽に暮らしてはいるものの、素朴な田園風景に囲まれて育った娘にとって煙ったい都会は少々息苦しかったかもしれない。思い切り伸びをして澄んだ空気を吸い込み、体いっぱいこの景色を味わう彼女は、政治家の妻などという堅苦しい役割から解放されて、セントムーアの田舎娘に戻ったように溌溂としていた。
 その姿を見ると、まだ未来を夢見ていた若い娘を大きな邸に閉じ込めるようなことをして、伯父も罪なことをしたものだと思う。
 ひと通り歩いて景色を味わった頃、昼を少し過ぎていたので、御者のブラッドと共に昼食の支度をする。バスケットの中にはコック長のアンナ(外国人の彼女は「この国には美味しいものがないから、私が作ってあげなきゃね」が口癖)が作った見た目も味も申し分ない料理が詰め込まれていた(しかし、アンナは作りすぎるのが困ったところ)。 歳の近い三人で賑やかに食事をした後は、もちろんお茶を。
 ブラッドは馬の様子を見に行き、僕はヘレンと二人分のお茶を入れる。極上のダージリン。ヘレンは砂糖がないと飲めないが、僕は砂糖なしで。飲みながらしばらく四方山話など話していると、ヘレンの様子が急に変わってしまった。
「おかしいわね、なんだか急に眠くなりましたわ.もう、我慢できないくらい 」
 そう言って手にしていたティーカップを落として、倒れ込んでしまった。
 僕は彼女の顔を触り、本当に眠ったのか確認する。すうすうと寝息がするだけで、何の反応もない。
「ふーん、案外早く効いたんだな」
 薬の効きに満足し、顔が綻ぶ。
 ぐったりした彼女を抱きかかえて馬車に戻ると、ブラッドは驚き混乱していたが、僕は「この近くに宿があるから、そこに行ってくれ」と指示し、馬車の中にヘレンと共に乗り込む。「バスケットなど片づけて来ますから、すこしお待ちください」というブラッドに、「全部近くにいた子どもたちにあげてくるといいよ、僕たちはもういらないから」と言う。
 遠くの山の上には黒い雲がかかり始めていた。もうしばらくしたら、ここにも雨が降るだろう。早く宿へ行かなければ。
 予定通りに事が進んだことに僕は満足し、ヘレンの寝顔を見ていた。

【告白】 

 夕方、昼の晴天が嘘のように大雨に変わり、外の景色は雨で煙って何も見えない。世界はこの部屋がすべてで、僕と眠ったままのヘレンとだけが存在しているかに思えてくる。
 椅子に座って、ベッドの上で白雪姫のごとく眠っている彼女を飽きずに眺めていると、彼女はとろとろと目を覚ました。何が自分に起きたのか、今いる場所はどこなのか、目だけをきょろきょろと動かし部屋を見まわし確認する。
「起きましたか? お茶を飲んでいるといきなり倒れられましてね、近くのこの宿で休ませてもらっていました。ああ、その恰好、ドレスのままでは苦しいだろうと思って、宿の女中に脱がせてもらったのですよ。喉は乾いていませんか?」
 起きた彼女に水を飲ませ、眠気を覚まさせる。
「私、自分に何が起きたのかまったく分からなくて.今だってそんな気分が悪いなんてことないんですのよ」
「きっと久しぶりの遠出に少し酔われたのでしょう」
 何の問題もないのだ、と思わせる。僕のたくらみなどおくびにも出さず。
 ヘレンは「もう大丈夫だから」と、起き上がり着替えようとするが、僕がまだ落ち着かないのだからと制止して、渋々といった顔でヘレンはまたベッドに戻り、座りなおした。
 僕がじっと彼女の顔を見つめていると、彼女はバツが悪そうにする。
「何か顔に付いてまして? さっきから私の顔ばかり見つめて」
 激しく屋根を叩きつける雨の音だけが響く中、ヘレンの瞳から目を逸らさず、僕はぽつぽつと話し出す。
「初めて貴女に会った時のことを思い出しましてね、貴女はエドワード伯父のことは覚えているかもしれませんが、あの時は僕も一緒にいたんです。
 あの晩餐会は病床にいた父の代わりに出ただけで、まだ学生気分も抜けきらなかった僕は、恥ずかしい限りですが、その夜の遊び相手を求めて女性たちに声を掛けていたような、つまらない人間だったんです。
 そんな中、テーブルの僕たちの向かいに着くのはセントムーアから来る男爵家の娘と聞かされても、最初は関心がなかった。田舎娘に興味はない、とね。失礼ですが高を括っていたんです。
 しかし、ご両親に連れられて私の前に現れた貴女を一目見たら、その部屋にいた女たちのことなどすっかり目に入らなくなってしまった。ええ、貴女に恋をしてしまったのです。
 その思いは自分でも持て余すほどに強く、あんなに横柄に女性を口説いていた僕が、貴女のことは視線の端で捉えることしかできなくなるほどに。貴女の美しさはまさに眩いほどで、僕は何としても貴女を手に入れると自分に誓いました。
 だけれど実は、あの晩餐の席はエドワード伯父と貴女の見合いの席だったと後で聞かされましたが、きっとこの話は破談になるだろうと思っていたんです。伯父の亡くなった伯母への愛は何があっても消えないだろうとね。
 それが、貴女と会った途端、いとも簡単に崩れました。年甲斐もなく、娘ほどの歳の貴女に恋をするとは。また、それを貴女は受け入れるとは、信じられなかった。
 僕の思いなど塵のように吹き飛ぶものなんだと、情けなくなったものです。貴女たちの結婚当時の僕の荒れようは貴女もご存知でしょう。でも、その理由が貴女への失恋だったなんて誰も思いもよらなかったでしょうね。この思いは隠しておかねば、と思いましたからね。
 それもしばらくして、父が亡くなり、僕が父の代わりにエドワード伯父の秘書役を務めるようになり、貴女への思いも落ち着いた、と思った頃でした」  今でもその光景を思い出すと、可笑しくてたまらなくなる。比類なき完璧な紳士、名政治家と世評の高い伯父の秘めたる秘密と欲望を見つけた時の、優越感にも似た感情は今でも胸にある。
「実は、密かに貴女たちの寝室を見せていただきましてね、そこで面白いものを見つけてしまったのですよ。何だと思います?まぁ、貴女たちには馴染みのあるものだとは思いますがね」
 そう思わせぶりに言うと、ヘレンはまさかといった顔をして真っ赤になった。それでも平静を装って背筋を伸ばして僕に向き合う。
「何でしょう、私にはさっぱり分かりませんわ」
 僕は椅子からベッドへ、ヘレンの横へ座り直して彼女の手を取る。
「恥ずかしがらなくてもいいのですよ、夫婦の営みは決して特別なものではないのですから。
 でも、あんなに張形に種類があるとは思いませんでしたよ、太さも長さもさまざまあるんですねぇ。 ふふふ、まさか初夜のときから使っているとか? しかしそこで、張形のことではたと思いましてね、エドワード伯父の主治医のファーガソン医師に世間話の体で聞いてみたのです。そしたら、誰でも秘密を話したいという欲求はあるものなんですね、内密にということで話してくれましたよ。伯父上の男性器が機能しないということを。
 別にね、病気はいいのです、大いに同情いたします。愛する人を満足させられない惨めさは、他人からは想像もできない苦しみだろうと。
 しかし問題は、貴女ですよ。冷たい道具を相手にさせられていたことに、満足していますか?」
 僕の問いに、ヘレンは顔を真っ赤にさせて僕を睨みつけた。
「そんなこと、私たち夫婦のことであって貴方には関係ないことよ。貴方がそんなことを言うなんて見損なったわ、私帰ります、ブラッドを呼んでください」
「そんなわけにはいきませんよ、大事を取って今日はこの宿で休んでいくことにしました。ブラッドには邸に知らせに行ってもらってますから心配いりません」
 僕の言葉に逃げ場を失った彼女はさらに怒りのこもった目で僕を見るが、美しく燃えるその目は、かえって僕の欲望を呼び覚ました。
 彼女ににじり寄り、顔を近づけ、こう囁く。
「怒りで自分をごまかしてはなりませんよ、僕には嘘はつかなくてもいい。僕なら貴女に肉体の喜びを教えて差し上げられますよ」
 そう言って僕は、彼女を抱きしめて唇にキスをした。最初は優しく唇を重ね、彼女の唇の柔らかさを味わうが、すぐ彼女の舌を求めて口を開ける。獲物を探るように、舌はヘレンの口内を弄り始める。
 彼女の舌は、まるで獰猛な野獣に蹂躙される小動物のようだった。
「あっ……ふっ……ん……んぐっ……やめ、て……ジェレミー……」
 時折漏れてくるヘレンの吐息に、僕は腰の奥から突き上げてくる何かを感じていた。 絡み合う二匹の蛇のように舌をくねくねと絡めつつ、ヘレンはなけなしの理性で僕の腕から逃れようともがき始める。だが、もみ合っているうちにベッドの上で二つの肉体は重なり合った。
 僕がこの機を逃すはずがなかった。
 襟のタイを外してヘレンの両手首を縛り、彼女の上に跨がると、ヘレンの姿をしげしげと見下ろした。
 ほぼ剥き出しといっていいその体から匂ってくる色香に、僕は惑乱しそうになる。
 引き締まった四肢とは対照的な豊かな胸の膨らみは呼吸に合わせて上下し、はだけた肌着から覗く太股は汗ばんでいて、当人でさえ無自覚に溢れさせている情欲への衝動に、股間が熱くなってくるのを感じる。
 だが、僕を狂わすのは肉体から漂う色香だけでなかった。
 髪を振り乱し、息を荒げ、怒りで潤んだ瞳からは、自分を汚すものを決して許すまいとする意志があり、ヘレンという魂の気高さを表していた。
 そしてその気高さからは、この貞淑な幼妻という鳥籠には収まりきらない、情熱や欲望が潜んでいることを、僕は知っていた。
その欲望の中には、もちろん肉欲も含まれている。
 僕は、彼女を解き放ってあげたかった。彼女を自由にしてあげたかった。
 そのためにも、今日は必ずやり遂げなければならなかった。
 たとえ、それが世間の良識に反するものであってもだ。
「やめ、て……、やめな……さい、ジェレミー! もし、これ以上、私に触れたら承知しないわよ……!」
 ヘレンはこれが最後通牒というように、語気鋭く叫んだ。
 だが、僕は分かっていた。
 彼女が言葉とは裏腹に、僕がするだろう行為に期待していることを。
 その証拠に、ヘレンの唇は物欲しげに開けられ、目は情慾に煌めいていた。
「やめてというわりには、さっきの甘い息はなんですか? すっかり僕のキスに骨抜きにされていたじゃないですか。伯父上はキスでも貴女を満足させてくれないのですか?」
 意地悪い言葉をかけると、僕は再び夢中になってヘレンの舌や唾液を貪った。しばらくは抵抗する様子を見せていたヘレンだったが、やがて自ら僕の唇を求めてくるようになった。
 ほら、言ったじゃないか。君は満足してないって。
 下着のボタンを外し、指先で胸の輪郭をなぞると、指の動きに合わせるようにヘレンの息が荒くなる。張りがありながらも柔らかい乳房を揉みしだいていると、「いやっ、やめて」とさっきと同じ言葉を繰り返すが、もう体の方は歯止めが利かない。
「嘘は駄目ですよ、もう乳首はこんなに吸われたがっている」
 言葉とは裏腹に、物欲しそうに上を向いている乳首を口に含んで舌で転がすと、ますます固くなってくる。時々甘噛みをして刺激すると、可愛く甘い声が漏れてくる。ハチミツのようになめらかな肌は乳首であっても変わらず、舐めていると本当に甘い味がしてくる。
 ならばここならどうだろう、と縛り上げてむき出しになった腋を舐めると、汗の味の中でも同じ味がする。それだけでなく、甘さに混じったどこか動物的な匂いにますます欲情してくる。
 首筋、胸の谷間から、乳頭、腋、脇腹、そこかしこを唾液まみれにして舐めまわす。 舌の動きに彼女は体をくねらせ、胸を一層突き出して僕を誘ってくる。股間にぐっと力が入ってきて、大きくなっていくのが分かった。
「あっ、そこ……」
 ヘレンの言葉に一瞬なんのことだか分からなかったが、彼女の足の動きで、僕はヘレンの足に股間を当てているのが分かった。
「ああ、これか。気になります? 男のここは、こんなにも変わるのですよ。そうだ、ならば違うお楽しみをいたしましょうか」
 そう言って、僕は彼女の手首のタイを外しベッドから降り、椅子に座る。
「こちらへいらっしゃい」
 ベッドから降りた彼女はどうしたらいいのか分からず、呆然と立ち尽くしている。
「僕の足の間に跪いてごらん」
 そうして跪いた彼女は敬虔な聖女のように祈る体勢になった。そんな彼女の頭を撫でながらこう言う。
「張形を口にしたことはありますか?」
「いいえ、ないです」
「それなら僕のモノを口と手で遊んでごらんなさい」
 そして、僕はペニスを取り出しヘレンの前に差し出す。彼女はホンモノのペニスに少したじろいだ様子で、僕のモノを眺めていた。
「さぁ、口を開けて。もう少し大きく。ちょっと苦しいかもしれませんが、大丈夫、じきに慣れますよ」
 僕はペニスをヘレンの口に含ませた。サクランボのようにふっくらとした唇が僕のモノを咥える。この光景を眺めるだけで、ますます大きくなる。
「そして飴を舐めるように舐めたり、手で擦るのですよ、やってご覧なさい」
 僕は彼女の手を取り僕のを握らせ、上下に擦るように促した。
 初め彼女は本物を口にした戸惑いから何も出来なかったが、そろそろと手を動かし、舌の先でちろちろと舐め始めた。まだ遠慮がちに動かしているから、くすぐったい感じ。
 しかし、丁寧な動きがかえって官能が刺激された。僕の口から甘い吐息が漏れ出て、それに刺激されたのかヘレンの動きも激しくなってくる。初めてにしてはヘレンは男の、というか僕の性感を上手く導く術を知っていた。
 一生懸命ペニスを吸ったり舐めたりシゴいたりするヘレンは、新しい玩具を手に入れた子どものように、もう夢中になってむしゃぶりついている。。彼女の唾液と僕の汁が混ざったぴちゃぴちゃという音が部屋に響く。
「ああ、こんなにも咥えこんで……。純情可憐だと評判の侯爵夫人は、意外にも淫乱あそばされるんだな」
 僕のこの言葉にヘレンは顔をあげて、少し怒った抗議するような目で僕を見る。こんな時だというのに、なんとも愛らしい顔をする。
「ああ、ごめんなさい、ちょっとからかってみただけですよ。ヘレン、本物のペニスのお味はいかがですか、美味しい?」
 動きはそのままに軽く頷いた。
 それはそうだ。精巧に作られていてもハリボテよりは本物の方が嬉しいに決まってる。その返事に満足して、彼女の頭を優しく撫でる。
 僕の声がますます上擦ってくる。その声に呼応するようにヘレンの動きも一層激しくなる。
「うっ、はぁっ、はっ、うんっ、イく、イく、イく、イく、ヘレン、愛してる、愛してる、イくっ、はぁっ、はぁっ」
 快感で頭が真っ白になっていく中、募っていったのはヘレンへの思いだった。三年前には無理だと思ったことが、今現実に起こっていることが信じられない。
「ああっ、出るっ、出るっ……出る、出すよ、出す」
 こうして絶頂とともにヘレンの口の中に射精し、彼女の口からペニスを出した後、そばにあった布ナプキンに口の中のものを出すように促すと、
「私、飲んでしまったわ!」
 と困惑していた。
 そんな彼女の頬を優しくゆっくり撫で、僕は嬉しさでいっぱいになりながら語る。
「飲んでしまっても何ら問題ありませんよ、むしろ飲んでくれて僕としては嬉しいです。僕のものが貴女の一部になったということなんですからね。僕を喜ばせてくれたのですから、さぁ今度は、貴女の番です。きっと、忘れられないものになりますよ」
 ヘレンを抱きかかえてベッドに戻る。少し放心状態の彼女にどうしたのか尋ねると、
「男の人が快感を得る姿って初めて見たんですもの。それも私が喜ばせたなんて」
 とうわごとのように呟いた。
「びっくりした?」
「少し。でも……嬉しかったわ。いつも私一人だったんですもの」
 伯父にとってはヘレンが快感に達することだけが目的だったのかもしれないが、当のヘレンにとってはそれは案外寂しいことだったのかもしれない。でも、僕ならそんなことはさせない。これから二人で快感に向かうのだから。
 僕が自分の服を脱いでいると、彼女は僕の背中の肌を愛撫してきた。やさしく、手のひらで味わうように撫でてくる。
「きれいな肌、しっとりと張りついてきて、全然違う……」
 誰と違うかなんてことは聞かない。彼女の愛撫を受けているとリラックスしてきて、一度落ち着いた欲情が逆に高まってきた。気持ちと体の奇妙な揺れがますますヘレンを求めさせる。
 そして、再び彼女と体を合わせると、再び彼女の胸から腹に唇を這わせながら下腹部へ移る。下着を脱がせながら、髪と同じブルネット色の茂みの中へ舌を入れる。膣からは愛液が溢れて、腿に滴っている。 
「もう、こんなに濡れて……。いやだなんて言いながら、少なからず僕に期待していたんじゃありませんか? 貴女がもうこうだとは、僕も我慢できなくなってくる……」
 クリトリスを指先で弄りながら溢れ続ける愛液を啜る。ヘレンの体は僕の舌と指の動きにピクピクと反応する。
「あっ、あんっ、こんな、はしたないこと、恥ずかしいっ、あっ、はぁん」
「はしたないなんてことはないですよ、淫らな貴女も美しい。さぁ、もっと乱れて、ほら、ここですか?」
 膣に指を入れて、音をわざと大きく立てながら中をまさぐる。時々ここが性感という場所を突いて、体が跳ねる。また、太ももに愛液がトロトロと垂れてきて、それを舐めとると彼女は快感とくすぐったさで体をくねらせる。 ヘレンの体が快楽の渦に飲み込まれているのを見ていると、僕のペニスは力んできて彼女の中に入れたくてたまらなくなってきた。入れたい、入れたい、入れたい、入れたい、入れたい、入れたい。
「では、貴女の中に……」
 そう言ってヘレンの足をもっと開かせると彼女は、
「あれ以外は初めてだから……」
 と少し緊張したように呟いた。
「ああ、そうだったね。ということは、本当の初めては僕ってことになるのか! ああ、そう気づいたら興奮してきちゃったな……」
 興奮で顔が緩んでくるのを抑えながら彼女の中にペニスを挿れる。中に入るのは初めてではないけれど、締まっているのでゆっくりと、中の襞を感じながら挿れる。根元まで入ると同時に奥を突いたようで、ヘレンが声を上げる。
「痛い?」
「いいえ、あったかくて、とてもいいわ」
 腰を動かし突き始めると、最初は声を殺して喘いでいたヘレンに、
「こんな大雨じゃ隣の部屋にだって聴こえませんよ、遠慮しないで声を出してごらん」
 と言うと、恥ずかしいそうにしていた彼女も、隠していた本性を表すように、
「ぅんっ、ああっ、もっと、もっと、お願い、もっと!」
 とねだるようになった。小さな可愛い獣のように身悶え、甘える彼女をますます突きあげる。
 そうしているうちに一つのことが頭によぎった。
「僕たちの子どもが生まれたら楽しいだろうね、それも僕似のブロンドの子どもだったら、伯父上はどんな顔をするだろうねぇ」
 そう想像すると、笑いが止まらなかった。三年前、僕の思いも知らず目の前でかっさらわれた女を、こうして犯し、伯父が望んでも出来ないことを自分はしてやっていると思うと、笑いが止まらない。
 自分は愛する女に子を孕ませることもできない男ではない。涸れるほど精液を注いでやろうと、ヘレンの足を肩に乗せ、突く速度を上げていく。ヘレンも腰を振り、僕を追い立てる。
「イくっ、どうしよう、イッちゃう、イッちゃうっ。ジェレミー、貴方もイキましょう、ね、ああっ……はんっ、あんっ、ねぇ、ジェレミーってばぁ!」
「うん、大丈夫、一緒にイこう。その顔、なんて綺麗なんだ……。僕だけの、ものだからね」
 二人で息を合わせるように腰を振っていると、ヘレンは僕の首に腕を回してしがみついてきた。それが合図のように、僕はクライマックスに向かって突き続ける。そして、先にヘレンが、ほどなくして僕が絶頂に達した。
 少し息が落ち着いたところでヘレンの顔を見ると、彼女も照れくさそうに僕の顔を見つめ返してきた。
「こんなに気持ちよかったのは初めてよ。血の通った人間相手だったからかしら、それともジェレミー、貴方だったからかしらね?」
「人間の僕だからだよ」
 そうして、二人ふふふと笑い抱き合うと再び求め合い、朝まで飽きずに愛し合った。
 雨は一晩中激しく降っていた。

【愛だけでは足りない】

 侯爵夫人が塞ぎの虫に憑りつかれているらしい、という話を聞いたのは、あの雨の日から二週間経った頃だった。寝室から出てこないというのだ。
 いつも邸を明るく照らす、陽気で華やかなヘレンがこのような有り様になっては、邸から光が消え、音もなくなり、伯父はもちろん、使用人たちでさえ顔に陰が差す始末。ヘレンがこのようなことになるのは初めてで、議会の日など伯父は妻の看病のために政務もそこそこに邸に帰ることが多くなった。 伯父の浮かない顔を見てヘレンの様子を窺うしかなかったけれど、きっとあの日の出来事がきっかけなんだろうことは想像できた。しかし、何を思い悩むことがあるのか僕には見当がつかない。
 僕の愛を喜んで受け入れてくれたじゃないか。これは彼女に真意を尋ねなければならない。
 議会のある日、伯父が邸を出る頃合いを見計らって、彼らの寝室をノックする。鍵はかかっていない。
「誰?」
 疲れたようなヘレンの声がした。
「僕です、ジェレミーです。入りますよ」
「駄目っ、来ないで……」
 しかし、怯える声を無視して中に入る。
 中は厚いカーテンが引かれたまま真っ暗で、ヘレンの様子は分からない。
「まったく、こんなに暗いままでは気持ちまで同じようになるのは当たり前です。今の貴女に必要なのは何よりも光ですよ」
 カーテンを思い切りよく開け、部屋全体に光を入れると、ベッドでシーツにくるまっているヘレンの姿が見えた。
 僕が彼女の脇に腰かけると、彼女はか細い声で言った。
「お願い、帰って……今は貴方の顔は見たくないの……声も聴きたくない.」
 すっかり拗ねた子どものような彼女に、あやすように囁きかける。
「何をそんなに機嫌を損ねているのですか?何があったんです? 言ってごらんなさい」
「……なんて意地悪なことを言うの、貴方のせいじゃない」
「僕のせい? さて、僕が何をしましたかね? さぁ、貴女の口から仰ってくださいよ。……ははは、これじゃあ確かに意地悪だな、でも、こう言うだけでいいんですよ。『私たちは熱烈に愛し合った』と。でも、それの何に気を病む必要がありますか? 貴女も喜んでいたではありませんか。思い悩むことは何もないんですよ。貴女がそんな風に塞ぎこんでしまっては、伯父上も心配して仕事も手につかない。そんな状態を貴女は望んでいるわけではないでしょう。こうして部屋に閉じ籠っていても何にもなりませんよ。気分転換にどこかへ出かけましょう。コッツリッジなんてどうでしょう、ちょうど今は花盛りで晴れやかな気持ちになれますよ、ね。では、僕は馬車の手配をして来ますから、貴女も出かける支度を」
 彼女は何も言わないが、断るという選択肢はないはずだった。彼女はもう僕の言葉に抗えない。
 馬車の仕度をし、ヘレンを待っていると、彼女は修道女のようなドレスを着て現れた。まるで純潔の誓いを立てたように。少し顔を強張らせて。
 僕たちが乗り込むと、リズミカルに馬車は動き出す。
 しばらくは二人とも無言のまま向かい合い、窓から流れる景色を眺めるか馬の足音に耳を傾けるくらいしかなかったが、沈黙を破ったのはヘレンの方だった。
 意を決して、という表情で話し出した。
「あの日のことは忘れて欲しいの、あれは私たちにとって間違いだったと。私の立場であんなことは許されないことなのよ、だから、なかったことにして……」
「馬鹿なことを言うものではありませんよ、一度起きたことをなかったことにするなど、神ですら出来ることではない。起きたことは受け入れるよりほかないのです。むしろ、その先をどうするかにかかっていると思いますがね。貴女はどうしたいのです?僕との関係を絶ちたい? それとも続けたい?」
 僕の問いにヘレンは泣きそうな声になり、顔を両手で覆って下を向いてしまった。
「私、あの人を、エディを愛しているの、あの人も私を愛しているのよ。それを裏切ってしまってあれから心と体がちぎれたように苦しいのでも、愛だけでは足りないって気づいたの、あの日貴方とああなって分かったのよ。私には貴方が必要なのよ、ジェレミー。でも、肉欲を貪るなんて罪なこと」
 この時、僕は罪の意識などクソくらえと思った。僕たちの愛の行く手を阻む存在なら、神でさえ邪魔者だと呪うだろう。
「いや、肉体を求めることも立派な愛ではないですか?愛がなければ求めることもないでしょう。僕は貴女しか欲しくないのです、真に愛ゆえにそう思っているのです」
 これは僕の心からの言葉だった。ヘレンへの愛に偽りはないと悪魔にすら誓える。僕の思いに迷いはない。ヘレンを手に入れるためなら、神を裏切ることさえ厭わないと覚悟した。その上でのあの日の出来事だったのだ。
 もう僕たちは引き返せない。ヘレンだって知ってしまった、僕の愛を。愛を、肉体で味わう喜びを。
「貴女は何も思い煩う必要はない、堂々と僕の愛を受け入れてくれればそれでいいのです。確かに、人目を忍ぶ、ということはあるにしても、決して後ろめたく思うことはない」
「でも、エディのことを考えると……」
 僕はヘレンの顔を両手で包み込み、真っ直ぐ彼女の目を覗き込む。
「僕といる時は僕だけを見て、感じて。エドワードのことは考えちゃいけない。今見ているものこそが確かなものなのだから」
 そして、彼女の目を覆ってこう言う。
「さぁ、今見えているのは……?」
 そう言って覆った手を離すと。
「ジェレミー、ジェレミー・タウンゼントよ」
 そう答えると、彼女は自ら僕にキスをしてきた。最初は躊躇いがちに、だが徐々に激しく僕の唇を求めてくる。
 そう、これでいい。自分の思いに素直に従えば答えは自ずと出てくる。
 彼女のキスに応えているうちに、僕の気持ちも昂っていく。
「僕の膝の上においで」
 ヘレンを僕の膝に乗せ抱き合った後、純潔の誓いのようなドレスを脱がす。ヘレンはこの瞬間を待ち望んでいたように笑みを浮かべる。そして、僕のジャケットの下に手を滑らせて、「貴方もよ、ジェレミー」と脱ぐように誘う。
 ジャケットを脱いだところで待つのももどかしいのか、彼女の方からタイを、次にボタンを外してきた。全部外したところで彼女は、僕の首筋や胸に唇と舌を這わせ、乳首を舌先で弄ぶ。
 この間のお返しとばかりに、彼女も負けじと舐め回してくる。
 こうやって彼女の玩具になっているのも楽しいが、彼女の甘い声や顔も楽しみたい。
 嬉しそうに僕を舐め、撫でまわす彼女に僕の足を跨ぐように促す。そして、ドレスをたくし上げ下着の中へ手を滑り込ます。少し濡れていたが、まだ充分ではない。指でクリトリスと膣を弄っていると、ヘレンの甘い吐息が漏れてきて、耳に心地いい。小声で「もっと、もっと」と腰を振る彼女の愛らしさに、指の動きも激しくなる。
 僕は、糸をひくほどの愛液を掬った指を取り出し、舐めとると彼女に言う。「貴女の蜜は格別に美味しいですよ」
 この言葉に桃のような頬が恥ずかしそうに上気する。
 そのうち、そろそろ僕のペニスももの欲しそうに盛り上がってきて、ズボンがきつくなる。彼女の中に入れたくて我慢できなくなってきた。ペニスを出して、彼女にこう言う。
「ヘレン、今日は君の好きなようにやってごらん。気持ちいいところに自分で突いてみるといい」
 彼女は下着を脱ぎ、改めて僕を跨ぐと、自分の中に僕のペニスを包み込む。そして、腰を振り始めると、馬車の揺れと体勢で前より深く中に入っていく。 ヘレンは僕の首にしがみついて、もう止められないとでもいうように激しく動く。
「ああんっ、あんっ、はぁっ、そこっ、はぁっ、やんっ、あんっ」
 動くたびに上下に揺れる胸の愛らしさに、唾液が垂れるほど吸いつく。また、弾力のある尻を掴んで僕の腰に押し付け、彼女の腰の動きを煽る。獣のような愛し方だが、下品だとは思わない。ヘレンの快感へ昇っていく顔を見ると、彼女の欲するものを存分に与えているという自信しかなかった。
「いやっ、イくっ、イッちゃう、めちゃくちゃになりそうよっ、やッ、やッ、イッちゃう、イッちゃう……」
「ああっ、イッてもいいよ、貴女の、イく顔が見たいな、ほらっ、イッて、イッて、イッちゃえばいいよ、めちゃくちゃになればいい」
 彼女の動きに合わせて、僕も腰を突き上げる。もっと強く、もっと早く。彼女の膣内と僕のペニスの摩擦で、愛液と精液が混ざり合う音も大きく響いてくる。
「ああっ、ああっ、あああっ、ああああっん、あんっ!」
 ヘレンの絶頂に達した声は馬のいななきでかき消され、外の誰の耳にも届くことはなかった。
 コッツリッジに着いたらしく、馬車が止まり、御者が声をかける。
「ジェレミー様、着きました」
「いや、ここにはもう用はないよ。邸に戻ってくれ」
 こうして花の香りに溢れる草原に降り立つことなく帰路につくことになった。

 僕とヘレンの関係を怪しむ人間は一人としていなかった。今までだって仲の良い兄妹のようだと見られていたのだから、今さら二人だけでいることを咎める人間など皆無だった。
 僕の部屋で、例のアンブルミアの宿で、伯父がいないときは彼女の寝室で、馬車の中で、僕たちはことあるごとに愛し合った。
 こんなこともあった。
 夕方、僕一人で仕事をしていた伯父の政務室へヘレンが来た時のこと。仕事が終わったら観劇に行くことになっていて、彼女は夜会服でやってきた。
「あら、エディはいないの?」
「ちょっとワトスン卿がやってきて下の応接室にいますよ、もう少ししたら戻ってきます」
 仕事の手を休めて、彼女に近づく。
「今日のドレスは見たことないな。新調したんですね」
「ええ、これを貴方に見せたくて」
「僕のためにおしゃれしてくれたのか、それは嬉しいな、ありがとう。でも、ドレスを着ている貴女は美しいが、脱いだ貴女も美しいんですがね」
 と、むき出しになっている彼女の白いうなじに口づけようとするが、彼女はさっとかわして、
「今は駄目よ、ドレスが乱れてしまうもの」
 と素っ気ない。
 しかし、
「でもそれなら、ね……」
 と彼女はそばに来てキスをすると、僕のズボンの上からペニスを撫でさすり始めた。
 ふーん、そういうことなら、と僕はボタンを外してペニスを取り出し彼女に握らせる。すると彼女はふんわりとした笑顔でレースのハンカチを取り出し、僕のモノにかぶせてシゴき始めた。
「貴方のは勢いがいいからドレスを汚しちゃうと大変だわ」
 もはや僕のペニスはヘレンの可愛いお気に入りだった。彼女がこうしたいと言ったら、僕は抵抗できない。
 互いに舌と唾液を絡ませながら、僕は彼女の手の動きのなすがままになる。
「はぁっ、はぁっ、ふんっ、うっ、ヘレン、まったく君ときたら、はははっ、ああっ」
 激しくはあるが乱暴ではなく、緩急のついた動きで僕を快感へ誘う。今にも伯父が戻ってくるのでは、というスリルもたまらず、僕たちを興奮させた。「んふっ、どうする? 今伯父上が来て、こんなことをしてるところを見られたら、あぅっ、ここで先っぽはずるいな、くくくっ」
「いいでしょ、ここ、お気に入りの場所だから可愛がってあげたくなるのよ、ふふふふふ。エディに見られたら? 玩具で遊んでただけよって言うわ、別に悪いことじゃなくてよ。だって可愛いんですもの、いつでも遊びたくなるの。あの人だってあんなに私に玩具で満足させようとしてくれてたんですもの、分かってくれるわ」
 僕のペニスを悪気なく「玩具」と呼ぶヘレンの変化を、僕は好ましく思う。可憐さと淫らな顔が少しも矛盾しない。彼女の人生は僕なしではいられなくなっている。これは充分に愛と呼べると僕は思うし、ヘレンも思っている。
 そう、僕たちは愛し合っているのだ。肉欲という形であっても、求め合う気持は神聖だ。僕を満足させようとしてくれるヘレンを心から愛おしいと思う。この情愛を道に外れていると謗るならそうすればいい。愛する人を手に入れた人間には恐ろしいものは何もないのだから。
「ああっ、イくっ、イくっ、イくっ、出るよ、出る出る出る出る出る、ああっ、我慢できないっ……」

「ああ、ヘレン、来てたのか。ジェレミー、どうした? 息を切らして」
 伯父が戻って来たのは、僕が果ててまだ息も整わなかったころだった。立っていられず、伯父の机の椅子に座っていた僕に伯父はこう声をかけたが、苦笑いしてごまかすしかなかった。
「私たちハミルトン夫人の話をしていたの」
 ヘレンはどんな時でも素っ頓狂な受け答えをしては笑いを誘うハミルトン夫人の名を出し、僕に小さくウィンクした。
「ははは、ハミルトン夫人か、それは大笑いもするか」
 そして、ヘレンは伯父に頬に軽くキスをし、
「そろそろ時間ですわ」
 と促す。
「ああ、のんびりしていたら始まりに間に合わなくなるな、じゃあ行ってくるよ」
「ええ、楽しんできて」
 伯父たちを見送り、再び一人になった部屋で、先ほど使ったレースのハンカチをポケットから取り出し、今度は自分でシゴき始めた。

【復讐】

 この関係が始まって八か月ほど経った頃、僕たちが政務室で仕事をしていると、僕の母が声高く部屋にやってきた。
「エドワード! 貴方仕事なんてしている場合じゃないわよ!すぐにでもヘレンのところに駆けつけなきゃ!」
「仕事中になんですか、母上」
「一刻も早く、エドワード、貴方に伝えたくてね! この間からヘレンの体調がすぐれないって言ってたでしょ、もしかしたらって思ってガバナー医師に診てもらいに連れて行ったの、そしたら、『ご懐妊ですよ』ですって! 赤ん坊が生まれるの! ねぇ、貴方とうとう父親になるのよ! ああ、なんて喜ばしいのかしら。これでサマセット侯爵家も安泰よ。ああ、赤ん坊、貴方たちの子だからきっと可愛い子が生まれるわよ!」
 母はまるで我がことのように喜んでいるが、ちらと伯父の方を見るとすっかり血の気が引いて青ざめている。椅子に座っていなければ倒れていたかもしれない。
「で、夫人は?」
「ヘレンもそれはそれは嬉しそうで、泣き出してしまったほどだったわ。ああ、今から待ち遠しい! 色々準備しておかなくちゃ、ベッドに肌着、玩具に、素晴らしい家庭教師もつけなければね!」
 まるで自分のことのように興奮して、まだまだ先のことも心配して喋り倒して母は行ってしまった。
 しかし、めでたいニュースを知らされた後だというのに、部屋の中には重苦しい空気が流れていた。この雰囲気を紛らわそうと伯父に祝福の言葉をかける。
「夫人のご懐妊、おめでとうございます、伯父上」
「ああ……ありがとう……」
 言葉とは裏腹に声は沈み、もはや僕に憚ることなく頭を抱えてしまった。
「ジェレミー、少し席を外してくれないか」
「分かりました。隣にいますので、用があればお声を掛けてください」
 そうして僕は部屋を出ていこうとした時、あのことを話しておくかと思いついた。何の気なしに、ちょっとした冗談でも言うように。
「ああ、伯父上、ひと言言っておきたいことが.」
 伯父のそばへ行き、耳元でこう言ってあげた。
「伯父上、何も心配なさることはありませんよ。安心なさい、夫人のお腹の子の父親は……僕ですよ」
 こう言うと、伯父は目を大きく見開き僕を凝視した。
「まさか……お前とヘレンが……? 嘘だ……あり得ない……」
「嘘ではありませんよ、伯父上。貴方の代わりに子を孕ませてあげたのです、夫人も大層喜ばれましたよ」
 伯父は困惑と怒りの目で僕を見つめる。
「ふざけるなっ! 私を馬鹿にするのか?」
「馬鹿にしているなどとんでもない。ただ、伯父上には子を孕ませることは無理でありましょうから、僕が子種を宿して差し上げただけですよ。むしろ感謝していただきたいほどです、このまま貴方たちに子がいなかったらこの家も安泰ではないのですから。それに、何より僕はヘレンを愛しているのです、貴方よりもずっとね。まあ、それに、ヘレンだって冷酷なわけではない。貴方のことを今でも愛していますよ。ただ、貴方が与える愛より、僕の愛の方が多く、強いだけのことで、どちらを選ぶかは貴方だって分かるでしょう。貴方のように満足に彼女を愛せない男は甘ったれているだけだ。僕こそ彼女に相応しい、と伯父上だって思いませんか?」
 伯父はさっきまでの青ざめた顔から一転、紅潮させて何か言いたそうに口を震わせているが、一向に言葉が出てこない。拳を作り、今にも僕を殴りかかりたそうにしているが、あまりの怒りで足に力が入らず立ち上がれないといった様子だった。
「どうしました、叔父上? 何がしたいのです? おっと、僕を殴ったりしたら、ヘレンがどうなるか知りませんよ。彼女を失いたくないのなら、僕のことには構わないことですね、ははははは」
 僕は勝利の味に酔っていた。この味の甘美さを味わうだけの苦汁は充分舐めたはずだ。そう、今目の前にいる男に味わわされたあの悔しさと無力感を、今度はこの男が味わう番なのだ。
 呆然と僕を見る伯父のそばを離れ、部屋を出て行った。

【エピローグ】 

 サマセット侯爵エドワード・タウンゼントの葬儀が行われたのは、それから三か月後のことだった。議会で倒れ、意識を取り戻すことなく亡くなった。
 四十六歳を目前にした出来事だった。
 葬儀には国王陛下も参列し、当代随一と言われた政治家の急死を悼んだ。参列者の心を揺さぶったのは、身重の若い未亡人の姿だった。我が子の姿を見ることなく亡くなった死者への同情が募り、皆揃って無事で生まれてくるよう願い、また言葉をかけた。
 埋葬後、邸に戻るために馬車にヘレンと乗り込む。伯父が倒れた直後から気も体も休まることがなかったせいか、少し痩せたようだが、体には影響がないと医者は言っていてひと安心だった。
 馬車は参列者の人々の列の脇を走っていく。やがて、その景色も遠くなる。 向かい合って座っていた僕は、彼女の隣に座り直す。その手を取り、無言で哀悼と労いの思いを伝える。彼女は憂いを帯びた目で僕を見つめ、手を握り返してきた。
 何も言わなくても互いに分かっていた。伯父の存在の大きさと素晴らしさと、その不在の寂しさを。
 改めて僕は伯父の霊に祈る。
 黒衣のヘレンはいつにも増して、美しさが際立っていた。かつての清純な雰囲気から気高い神々しさに変わっていた。それは身篭ってからの目立った変化だった。
 彼女は大きくなったお腹をさすりながら言う。
「エディにも見せてあげたかったわ、私たちの子ども」
 僕はヘレンの手に自分の手を乗せ、彼女の手と共にお腹をさする。
「きっと君にそっくりな可愛い女の子だろうね」
「いいえ、絶対貴方にそっくりなブロンドの男の子よ」
 生まれてくる赤ん坊のことを考えていると伯父の急な喪失感も紛れるのか、ヘレンの顔に明るさが戻ってくる。彼女に暗い顔は似合わない。たとえ、死の前であっても、だ。
 僕は慈しむように彼女にキスをすると、彼女は僕の気持ちに負けじと熱く返してくる。そして、二人で名前を考えたり、この子の将来のことを考えたりしていると、伯父のことは景色と共に過去に流れていく。
 もう悲しみは伯父の亡骸と共に消え去っていくだろう。
 僕たちは未来だけを胸に抱いていた。

Fin

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